第150回 他大学の大学院へ進学しようと考えている方へ 麻原遥平 |
◇挨拶
こんにちは。広島大学工学部第二類 電子システム課程 横山研究室の麻原遥平と申します。このたびはコラムを書かせていただく機会を頂けましたので、今年度に行われた大学院試験(修士課程)を経て、来年度から他大学の大学院(以降は他大学院と表記)へと移る私の実体験を基に、今後、他大学院への進学を考えている方に向けて、少しでも参考になればと思い、書かせていただこうかと思います。ちなみに、私は電気系・電子系分野が専攻ですのでそれ以外の分野の方には参考になる情報は無いかもしれません。予めご了承ください。
◇大学院試験とは
まず初めに、大学院試験は大学入試ほど一般的なものではないと思いますので、大学院試験について説明しておこうと思います。大学院試験(修士課程)は専門科目, 基礎科目(数学のこと), 英語, そして面接によって合否が決められます。出願期間は各大学院で異なりますが、多くの大学院は6月中旬から7月下旬頃の内の一週間となっています。試験は8月上旬から下旬頃に行われ、2週間後位に合否が発表されます。配点も各大学院で異なりますが、専門科目>>基礎科目≥英語のようになっており、専門科目の配点が圧倒的に高いです。面接は、明確に点数化する厳しい大学院もあれば、3段階評価にするなどそれほど厳しくない大学院もありますので配点はわかりません。この試験の中で六割三~五分程度の点数や評価を得られればギリギリ合格、というのが簡単な説明です。深く掘り下げると、大学院によっては各科目で足きり点があるところもあるようなので受験される方は注意して下さい。
◇他大学院へ移ろうと思った時にまずすべきこと
他大学院へ移ると決心したら必ずするべきことは、移りたい研究室を決め、訪問することです。今後最低でも2年間お世話になる研究室ですし、研究内容だけでなく、その研究室のメンバーがどんな方たちなのか、その研究室の評判、人気等を聞きに行った方がいいと思います。なぜなら、大学にはブラック研究室というものが本当に存在するからです。ブラック研究室は外からでは見抜けないため、実際に足を運んで先生と直接お話するだけでなく、所属している生徒の方にお話を聞き、色々と内情を教えてもらってから研究室を選ぶのが一番賢明だと思います。また、面接で役立つ情報や、もしかすると、先輩方が解いた過去問の解答などが貰えるかもしれないので、必ず事前訪問するべきだと思います。
上記のように書きましたが、実は私は他大学院へ移る決心がつくのが遅かったため、結局事前の研究室訪問はできませんでした(合格後に訪問させていただきました)。受験前に「事前に研究室に訪問しておかないと合格させてもらえない」等の噂話を聞いていたのでかなり不安だったのですが、なんとかなりました。お勧めはしませんが訪問をしないという選択肢もあるにはあるので、事前訪問ができなかったからといって諦めないでください。
◇それぞれの科目の勉強等についての説明
1.専門科目
まず一番配点の高い専門科目からです。自大学院の試験は授業でやってきた内容の延長が出題されますので、これまでの内容をしっかりと勉強し、わからないところを先輩方等に質問に行けばあまり問題はないと思います。問題は他大学院の試験です。各大学によってカリキュラムが異なるため、同じ科目名だったとしてもやっている内容がかなり異なる場合があります(私の場合だと、電磁気学はほぼ同じ、回路理論全般と半導体デバイス工学は若干範囲が異なる程度、電子物性論・量子力学は基礎的な部分以外まるっきり違うといった感じでした)。ですので、他大学院に移ろうと考えている方は、早め早めに移り先の大学院の過去問(多くの場合、各大学院のHPに掲載されていると思います)を解いて(解けなかったとしても調べて)どんな内容が頻出なのかを確認し、どのように勉強をしていくべきなのかを考えなければなりません。大学院試験の問題を作成される教授等の方々は、試験に不公平が生じないよう基本的には大学院試験の内容についての質問は生徒に答えてはいけないことになっているので、あまり頼ることはできません。また、先輩方も教わっていない内容の質問には困ってしまいますので頼ることはできません。大学受験の時の赤本のように、他の人が作った、過去問の模範解答があるわけでもありません。(自大学院の場合は先輩が昨年勉強のために解いた解答があると思います)。よって、他大学院の試験の勉強はほぼ全て自力で調べて勉強し、解答を作っていかなければならないので本当に大変です。しっかりと時間に余裕をもって勉強していってください。
2.基礎科目
基礎科目(数学)は大学1,2年でやった内容がでます。こちらも専門科目同様に大学によってかなり異なりますので内容を確認しておいた方がいいです。試験範囲は、微積, 線形, フーリエ変換, ベクトル解析, 複素関数, ラプラス変換, 確率・統計などです。(全てが範囲ではなく、指定されていたり、選択式であったりします。出願する大学院の試験形式を確認してから勉強することをお勧めします)。これらは大学院試を意識し始める3年になったときにはすでに履修が終わっている科目ばかりだと思うので早めに復習し始めることをお勧めします。私は広島大学工学部で毎年行われているEMaTも活用して復習しました。微積と線形の基礎的な範囲の復習に大変役立ちました。学外の方も閲覧できますので是非参考にしてみてください。
EMaT工学系数学統一試験 URL : http://www.aemat.jp/exam/
3.英語
英語は大学によって仕組みがかなり異なり、出願の際にTOEIC, TOEFLのスコアシートを提出し、その点数で英語の点数を決める大学院もあれば、それに加えて大学院側で作成した英語の試験を実施するところもあるようです。英語の注意点は、他大学院に提出するTOEIC, TOEFLのスコアシートは公式テストのものでなければならいことです。(自大学院の場合はITPテストのスコアシートでも可)。これを知らないと最悪、受験できない、もしくは英語の点数0点で試験に臨まなければならなくなりますので注意してください。
TOEFLは受験料が235ドル(26,337.63円, 1ドル112.075 円で換算 2017/11/20現在)と、一回受験するだけで約2.6万円かかります。東京大学、京都大学を受験される方以外の方には、かなりハードルが高い金額だと思われます。(東京大学は申し込めばTOEFL ITPテストを試験当日に受験できますので、ぶっつけ本番で構わないのであれば大丈夫です。)
東大、京大以外を受験される方のほとんどはTOEICを受験されると思います。TOEICの受験料は5,725円ですのでTOEFLに比べれば断然安いです。しかし、TOEICは月一回しか試験が行われておらず、また、試験から1か月ほどしなければスコアシートが届かないため、出願期間に間に合わないということがありえます。具体的に院試の出願期間に間に合うためのTOEICの試験日を来年2018年のTOEICの日程で考えていくと、院試の出願期間を7月中旬とすると(参考までに、2017年の広島大学大学院の出願期間は7/18(火) ~ 7/24(月)17:15 )、6/24の試験ではスコアシートの送付が間に合わないため5/20の試験を受けなければなりません。5/20の試験の申込期間は2018年3/2(金) 10:00 ~ 2018年4/3(火) 15:00 となっています。つまり、7月中旬の院試の出願期間に間に合わせるには遅くとも3月中にはTOEICに申し込んでおかなければなりません。3月といえば、自大学の研究室配属が確定し少し気が緩む時期であり、きりがいいから4月から院試の準備をしようかという考えが浮かびがちですが、4月になってからでは下手すると他大学院試験を受けられなくなってしまいます。ですので、遅くとも3月中にはTOEICに申し込んでおいてください(大学院によってはそれでも間に合わない場合があります)。
英語は複数回受けられて、一番良い結果を提出できる唯一の科目ですから、多少お金を使ってでも複数回受験されることをお勧めします。4.面接
面接では、今取り組んでいる研究について、大学院から移ってから取り組みたい研究について、将来の展望、博士課程後期に進む気があるか、筆記試験の出来具合はどうだったか等を聞かれました。持ち時間は一人10分でその短い時間で色々とアピールしなければいけません。私は、今取り組んでいる研究については、研究背景, 原理, 今抱えている問題点, 問題点についての自分なりの考察と改善案等を答えられるようにしました。その他の項目については、思っていることを赤裸々に語れば良いのではないかと思います。
それと、面接の際の服装ですが、私は私服で臨んだのですが(夏でしたので半袖半ズボン)、他大学院試験での他の受験者はほぼ全員スーツで臨んでいました。私は一応合格出来ましたし、特別高い成績だったわけではないと思いますので、「スーツを着て面接に臨んでいないから減点・ないし不合格」なんてことはないと思います。遠方からだとスーツ一式は結構邪魔になりますし(特に革靴)、スーツで臨まなくても(よっぽど変な服装でなければ)構わないと思います。5.勉強時間の割り振り
勉強は配点の高さ通りに、専門科目>基礎科目>>英語の順に重点を置いてやっていけば良いと思います。英語はそこまで高い点数を深追いはせず、ある程度の点数で切り上げ、専門科目に時間を割くべきだと思います。というのも、専門・基礎科目の問題は一つ前の問題の答えを利用して次の問題を解いていくというような形式になっていることが多いため(例として、大問の(2)の答えを用いて次の(3)を解いていくような形式のこと)、もし途中の問題がわからないと、それ以降の問題全てが解けないということになりかねません(大学院試験では大問が一つしかないこともありますし、大問の内容が繋がっていることもあります)。そうなってしまうと、専門科目は配点が高いため英語で稼いだ点数のアドバンテージなど簡単に吹き飛んでしまいます。ですので、専門科目を重視することを強くお勧めします。基礎科目は専門科目を勉強する上で必要になってくる内容が多いので専門科目と並行して勉強していくといいと思います。
◇大学院試験にかかる費用
大学院試験にかかる費用についてです。大学院試験の受験料は自大学、他大学ともに3万円でした。自大学の場合はこれでほぼ全てだと思いますが(他にTOEICの受験料などがあるかもしれません)、他大学院へ移る方は交通費・宿泊費等が当然かかります。参考程度に私の場合は、新幹線代(学割・往復割りで)約3万円、宿泊費(※4泊5日で)約3万円かかりました。よって他大学院を受験するだけで食費・新幹線以外の交通費等を加味すると10万円以上はかかりました。それ位の金額は覚悟しておきましょう。
※ 前日入りし試験会場の下見をするために1日、私が受けた他大学院は試験が3日間に渡ったため、試験で3日、最終日の試験会場に衣服等の全ての荷物を持っていくことや、帰りの新幹線に間に合うように慌てて移動するのが嫌だったので、ついでにもう一泊して観光しようと思い1日、よって合計4泊5日となりました。
◇他大学院へ移ろうとしている方へ
大学受験をして大学生になり、これまで大学生活を送ってきた方はおわかりかと思いますが、入学するまでよりも入学してからの生活の方が遥かに重要で大変です。それは大学院でも同じことが言えます。自大学に残れば、ほとんどの方は大学4年生の時に行った卒業研究と同じ内容を引き続き取り組み、修論を作成していくことになると思います。ですので、一つのテーマを3年間かけて取り組むことになります。一方で他大学院へ移った場合、配属される研究室により程度の大小はありますが、大学4年生時の卒論のテーマとは異なるテーマを研究することになると思います。よって、他大学院に移った学生は3年間で2つのテーマを研究しなければならないということになります。加えて、慣れない環境に移りますし、入学した年の終わり頃には就職活動のために動き出さなければならない等、前途多難です。他大学院に移る際はそれなりの覚悟を決めて挑みましょう。
◇最後に
やっぱり、やらずに後悔よりやって後悔だと思います。大学院試験は大学受験とは異なり、受験日さえ被っていなければ複数校受験できます。ただし、前述したとおり大学によってカリキュラムが異なるため、同じ科目でも試験範囲が異なってきますので複数の大学院を受験するのは相当大変です。広く勉強しなければならないために浅くしか勉強できず、結果、自大学院・他大学院共に落ちるということもあるかもしれません。ですが、後からやっておけば良かったと悔やむくらいなら今精一杯頑張った方が良いと思います。
他大学院へと移るという選択が自分にとって良いものだったのか今の私にもわかりませんが、移って良かったと思えるようにこれからも頑張っていくつもりです。他大学院へ進学しようと考えている方は是非頑張ってみてください。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。つたない文章ではありましたが、読んでくださった方のお役に立てましたら幸いです。