第148回 初心忘るべからず
吉田 毅 准教授
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私が電気・電子工学の分野に興味を持ったのは,小学生の時に定期購読していた科学雑誌の付録についていたダイオード検波ラジオが切っ掛けです.当時は,電池もないのになぜイヤホンから音が出てくるのか不思議でたまりませんでした.それからお小遣いをためて電子工作キットなどを購入しては組み立てたり改造したりして遊んでいました.安価な電子工作キットは集積化されていない,抵抗,容量,ダイオードやバイポーラトランジスタ等のディスクリートデバイスで構成されていたため,とてもシンプルで基礎や原理を知るには有用でした.
しかし科学技術の進歩した現在は家電製品も含めて非常に複雑でわかりにくくなっています.先日のオープンキャンパスで中高生が見学に来てくれましたが,説明用に展示している少し古い携帯電話のプリント基板や実装されているIC等を興味深そうに眺めており,ほとんどの人が内部を見たことが無いとのことでした.最近の内閣府消費動向調査によれば,PCの世帯普及率が75%以上,携帯端末は90%以上と非常に高くなっていますが,家庭ではラップトップPCの所有が多いと予想されており,内部のマザーボードだけではなくハードディスクやメモリの交換もほとんど行われないのが現状だと思います.また自分の携帯端末を分解する人も殆どいないでしょう.したがって,中身を見たこともない携帯端末やPCのブラックボックス化がますます進み,その仕組や原理を知ることが更に難しくなることでしょう.
基本的な原理を知ることは,工学の分野のみならず科学技術の進歩している現代に生きる上でのリテラシーとして大事なことだと思います.子供の頃に持っていた知的好奇心や基礎を大事にする心を忘れないよう,自らを戒めるために,当時は高価で購入できなかった電子ブロックを衝動買いして手元に置いています.