広島大学 大学院先端物質科学研究科 半導体集積科学専攻

コラム   

第147回 神に頼ったニュートン

  

佐々木 守

 准教授

半導体集積科学講座

 

 

 


ケプラーが発見した楕円軌道と面積定理に根拠を与えたのは、もちろんニュートンの重力理論である。
ところが、「諸彗星や諸惑星の相互作用から生じたと考えられるわずかな不規則性は増加する傾向にあり、ついには大陽系は改善を必要とすることになる」と述べて、太陽系の安定性には否定的で、その消耗されるエネルギーの補填や秩序立った運行の調整は「神が行う」と考えていたそうである(「重力と力学的世界 古典としての古典力学」山本義隆著)。時代背景があるのせよ、自然科学に多大な貢献をしたニュートンが、自身が解決できない難問を「神が行う」としていた事実をはじめて知った時にはいささか驚いた。実際、当時の観測では、木星の軌道は収縮しつづけ、土星の軌道は拡大しつづけていた。1747年にパリのアカデミーは、この土星・木星問題を懸賞問題として、これに挑戦したのがかのオイラーであり、繰り返し挑戦したにもかかわらず失敗している。しかし、オイラーの後を継ぐラグランジュとラプラスが肯定的に解決した(太陽系は安定に存在しつづけているので、当然ではあるが)。ここで、定数変化法(オイラー)、摂動方程式(ラグランジュ)、摂動解による安定性の証明(ラプラスの定理)など、現在の科学技術においても重要な概念や方法論が開発されている。ニュートンが諦めてからわずか1世紀のできごとであり、ラプラスによれば、「ニュートン力学は最も深刻な危機を自力で脱出した」とされている。天王星の軌道の不規則な観測結果から逆摂動計算によって新な惑星の位置を計算して、天体観測によってその位置に海王星が発見されるに至っては「力学と重力理論の万能性」が証拠づけられたが、今度は、「ラプラスの悪魔」に象徴されるように、この万能性が過大に評価され、弊害を産むことになる。

(佐々木 守)

(2017/6/7)

 

PAGE TOP
広島大学RNBSもみじHiSIM Research Center