広島大学 大学院先端物質科学研究科 半導体集積科学専攻

コラム   

第137回 「人生は一局の将棋なり」
 

伊藤裕治

研究生
電子デバイス研究室

 

 

過去のコラムで、将棋の感想戦が話題に取り上げられていましたので,私も将棋という競技を通して感じたことを書き連ねてみようと思います.
私も昔から将棋が好きで,プロ棋士の対局も頻繁に観戦しています.私自身は最近将棋をあまり指さなくなってしまいましたが…
将棋界では,先々月に羽生善治さんが名人位を陥落し,佐藤天彦新名人が誕生しました.
名人戦は,名人と,その年のA級順位戦でトップ成績を収めた棋士が争う伝統ある七番勝負のタイトル戦です.1局に2日間をかけて行われますので,持続的な集中力と体力が求められる棋戦です.羽生さんは対局に負けてしまいましたが,今なお強豪若手棋士と互角に渡り合う彼の姿に胸を震わされる思いがします.
ところで最近,「人生は一局の将棋なり 指し直す能わず」という言葉を知りました.これは菊池寛さんという小説家が残したものだそうです.今までは,自分にとって将棋とはほとんど遊びのようなもので,人生観に結びつけるようなことは全くありませんでした.しかしこの格言を見た後に改めて将棋という競技を考えると,そこから学んだことは多かった気がします.
将棋は,一度指してしまった手は戻せません.そのうえ指してしまった手が悪手であれば,それを咎められてそのままズルズルと負けてしまうことが多々あります.相手に一度ペースを握られてしまっては,戦局で優位を取り戻すことはなかなか難しいです.
私が今までに負けた対局を振り返ってみると,たった1手分の油断や勘違いが戦況を悪化させ,ミスを取り戻せずに負けてしまうパターンがほとんどでした.
社会でも似た事が起き得ると思います.上司からの指示や,同僚との話し合いの中でお互いの解釈に差異があると,後に重大なミスに繋がることがあるかもしれません.ミスを修正するためには,余分な時間を費やさねばなりません.格言通り,一度やってしまったことは元に戻せません.
それらを考慮すると,研究活動というのは,社会で活躍していくための訓練と考えられます.
研究では必然的に他者とのコミュニケーション能力が求められます.自分の考えを,誤解無く相手にうまく伝達する必要のある場面が多々有ります.研究活動を数年間行えば,社会で活躍するための基盤を十分に培えると思います.
私は諸事情で大学院の進学を辞退し,来年からは社会人として働く予定ですので,残念ながら研究室に在籍できる期間は残り少ないです.しかし,将来社会人として活躍するための訓練として,残りの研究生活を充実したものにしていきたいと思います.
最後に全くの余談ですが,羽生善治3冠の永世竜王獲得と,通算タイトル獲得数100期の達成を心より願って止みません.


(2016/07/27)

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