広島大学 大学院先端物質科学研究科 半導体集積科学専攻

コラム   

第121回 「簡単そうで難しいこと」
 
横山 新
教授
ナノデバイス・バイオ融合科学研究所

 
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 世の中には簡単そうに見えて、実は難しいことがたくさんある。プロのスポーツプレーヤーや音楽家は難しい技をいとも簡単そうに見せてくれる。しかし、その域に達するには並々ならぬ努力が必要なのだ。

 話変わって、先日アルミゲートMOSFETを作る実習を行った。2007年から毎年夏に、先端研の半導体実践講座という実習を行っており、2011年までは、本格的なLOCOS分離、poly-SiゲートのFETを、教員・研究員・学生総勢10名以上の協力を得て、設計から製作・測定までを1週間かけてやるプログラムである。本学・他大学、企業の方が毎年数人~10人程度参加していただき、好評だった。しかし、作業量がたいへん多く受講生が帰ってから毎晩夜中まで作業する日が続く。もっと簡単にするために、LOCOSはやめ、酸化、ウェットエッチに切り替えた。poly-Siゲート・セルフアラインもやめ、最初にソース/ドレインをレジストマスクとヒ素イオン注入で作り、あとから目合わせでアルミゲートを形成する。これだと、製作日数は3日で済む。2012年から始めて2年間はうまくいった。しかし、昨年(2014年)は、ソース/ドレインと基板間のリーク電流が発生し、徹夜でやり直して何とか動かした。インプラ後、アニールせずにいきなり酸化したことが原因と思われ、今年はこの点を改めうまくいくはすであった。ところが、予想に反して、この方法でも、昨年と同様のリークが発生した。炉の汚染、インプラの不調など様々な原因を想定し、徹夜で原因究明・復旧作業を行った。これぞと思われる方策を講じて作り直したが、リークが修まらない。その代わり、工程ごとにチェックを入れたため、アルミゲート形成後の400℃アニール(PMA)によってリークが増大することを見出した。そこで、これを省略して再度作り直し、やっとまともな特性が得られたのが最終日の昼。残りの半日で13名の受講生が、各自設計した回路を測定し、なんとか窮地をしのぐことができた。2日の徹夜をものともせず、最後まであきらめずに協力してくれた、教員・研究員・学生に対して感謝の気持ちでいっぱいである。半導体プロセスは、実に繊細であり、同じレシピーでも作業員が変わると失敗することさえある。メタルゲートに替えてうまくいった最初の2年間は「まぐれ」だったのだと痛感した。失敗のおかげで多くのことを学ぶことができた。来年こそは、一回目で成功させようと思っている。ちなみに、PMAでなぜリークが増大するのかは、アルミスパイクや汚染などいくつかの理由が考えられるか、まだ特定はできていない。

 簡単にみえることの裏には、実に様々な複雑な物理現象の組み合わせの妙があるのだと実感した次第である。

MOS電界効果トランジスタ・回路実習風景。

MOS電界効果トランジスタ・回路実習風景.

左上は,完成チップ(6×6 mm2,3個)

(2015/09/01)


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