第117回 「イッツアスモールワールド」
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スモールワールド現象,これは6人知り合いをたどれば世界中の誰とでもつながると言う仮説だが,我々の業界では違った意味でも用いられる.同じ業界にいれば,いつでも旧交を温められるといった意味だ.先日,マイクロ波の学会に参加し,業界流のスモールワールド現象を体感できたので報告しようと思う.
エクスペディオンデザインシステムズ社,この舌を噛みそうな名前の会社はカルフォルニア州ミルピタスにあり,私の職場でもあった.広島大学大学院在学中に読んだ「若き数学者のアメリカ」と言う本に感化され,海外で働くことを決意したのは学位取得の数ヶ月前.技術面接では何を聞かれるのかと気を揉んだが,ギルバートミキサの動作原理を聞かれた程度,実技試験では辞書式圧縮のプログラムをSTL利用可でコーディングする程度であっけなく入社が決まった.同社は世界最高速のハーモニックバランスRFシミュレータ,製品名ゴールデンゲートの開発と販売を行う会社であり,私の担当は同シミュレータのVerilog-Aパーサ及び離散時間の伝達関数をハーモニックバランスエンジン用にマッピングすることであった.会社で犬を飼っていたり,冷蔵庫に無料ビールが置いてあったり,半ズボンとサンダルで客先訪問したり,カルチャーショックは大いにあったが,本題とずれるのでまたの機会に報告できればと思う.ところでステレオタイプな私のイメージに反して,移民を含めた米国人はとても働き者だったのが,一番の驚きだったかもしれない.ミルピタスを含めたベイエリアの住居費は収入に応じて家賃が変わるので高めだが,技術者を大切にする風土で陽光あふれる西海岸での仕事はとても楽しくやりがいを感じた.
同僚との会食,右側で赤い顔をしているのが筆者
同社がつまずいたのはほんの些細なことだった.チップ試作サービス会社とのアライアンス契約の遅れから,暗号化されたトランジスタのモデルファイルが読めなくなってしまったのである.モデルファイルが読めなくては,どんなに良いRFシミュレータでも使うことができず,顧客を失う結果となった.ささいな事案でも,駆け出しの小さな会社には致命傷足りえる.結果,世界最高速のハーモニックバランスエンジンは某社に買い取られ,会社は事実上の解散となり,充実した西海岸での日々は思い出とともに筆者の胸にしまわれた.
現職着任後の先日,マイクロ波の学会に参加する機会を得た.学会では研究発表のみならず,企業展示も行われる.そこで知己から某グローバル企業主催のレセプションに誘われ参加したのだが,驚いたのはかつての同僚2名が主催者としてレセプションに同席していたことである.昔話に花が咲いたのは言うまでもないが,一番驚いたのは筆者の応援しているNBAの選手がかつての同僚(写真一番左)の甥っ子だったってこと.イッツアスモールワールド!
(2015/05/29)