広島大学 大学院先端物質科学研究科 半導体集積科学専攻

第110回 「究極の道楽」
 
村上 秀樹
助教
量子半導体工学研究室


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 昨年末 大晦日の日に予定していたイベントがキャンセルになったため、一日まるまる暇になってしまった。かといって、なんとなく仕事をする気にもなれなかったので、ネットサーフィンしていると、アウトドア等で使用するためのアルコールバーナーをジュースの缶を使って自作する記事をみつけた[1,2]。基本的には、「アルコールを燃やす」だけで、だれだって理科の時間にアルコールランプを使って実験したことぐらいはあるので、そんなに大した話ではないと思ったが、中学生時代に同じようなことをしたこともあったので、興味をもち調べてみると、当時は考えてもみなかったさまざまな種類の構造、高効率燃焼のためのしくみがあることを知ることが出来た[3]
 暇なこともあいまって、一気にテンションが高まり、思い立ったが吉日とばかりに、作ってみることにした。手持ちにない工具や材料を買い出しにホームセンターに出かけて、なんだかんだで、2000円分ほど買い込んだ。もちろん、主材料となるアルミ缶のジュースも含まれている。勢いそのままに帰宅して、製作にかかった。


        缶をきれいに割るために手作りした専用工具

缶を美しく半割にする専用工具をわざわざ作成し、缶を上部と下部にわけ、これらを重ねて、嵌め合わせることによって、構造が完成する。缶が重なったすき間を、毛細管現象によって燃料となるアルコールが上昇し、さらに狭い空間で気化することにより陽圧になり、吹き出し口から勢い良く炎が吹き出すのである。
  この、わざわざ専用工具を作成してまでも完成度をあげることは、この手の趣味においては重要である。
  完成させたら、早速試運転である。購入しておいた燃料用アルコールを入れ、着火マンで火をつけた。入れたアルコールが直接燃えているように見える。入れたての浅い知識によると、このとき、缶の温度が徐々に上昇する、予備加熱が起こっているはずだ。温度上昇し、アルコールの気化を加速させ、そのうち本燃焼が始まり、吹き出し口から炎がでてくる。まさにその通りの結果が目の前で起こった。





感動である。

  まずはお湯でも沸かしてみようと思い、水を300cc ほどステンレスの容器に入れて、沸かしてみた。予想以上に火力が強く、5分ほどで沸騰させることができた。出来たお湯で、何もせずにはいられず、カップラーメンを作って食べた。至福である。 アルコールバーナーを作成し、それを利用し、調理(?)して、食事までできたこの一日は、私としては非常に充実したものになった。
  自ら作ったものが動作したときは、それがなんであれ感動するし、嬉しい。ものづくりは、作っている時の楽しさ、うまくいかず試行錯誤する楽しさ、機能した時の感動、役に立った時の嬉しさを与えてくれる、大変素晴らしいものだと個人的には思っている。
  結果がなにかと重要視される昨今である。もちろん結果は重要であることは間違えないが、それに至るプロセスにおいて、「楽しさをみいだせているか?」ということは、非常に重要だと思う。今回やった、アルコールバーナー作りも、結果として出来上がったものだけみると、バカバカしい。ガスコンロも電気ケトルもあるのに、一日かけて、燃料をいちいち入れてやらないと役に立たないバーナーを、2000円もかけてつくったのだから。失敗したところで誰に怒られるわけでも、迷惑をかけるわけでもなく、おそらく実用品として使うかというと「?」である。旦那の「道楽」以外の何ものでもない。でも、こんなことでも、成功体験として自分の中に残り、越えがたい課題に立ち向かう気力を与えてくれる。また、そのプロセスにわずかでもある楽しさが、その気力を持続させてくれている。ゲームにおいて、レアなアイテムの獲得や、ボスキャラへの勝利で得られるものとは、次元の違うものではないかと思う。

  *アルコールバーナーを作ってみたいと思った人は、安全には十分注意して、自己責任で、やってみてください。火を使うときは屋外で!!

 

(2015/01/21)


 

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