第107回 「ホタルの光」
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半導体集積科学専攻博士課程後期2年の宮下惟人と申します。今年4月に編入学で千葉から広島に来ました。師走に入り、東広島の寒さに戸惑いながらこの原稿を書いています。
打って変わって季節はずれの話題で恐縮ですが、初夏の夜に飛び交うホタルの光を見ると美しく感じると思います。4年生の時に初めて関わった実験がホタルの発光を調べる研究でした。ホタルの発光は、ルシフェリンという分子がATP(アデノシン三リン酸)とルシフェラーゼという酵素を触媒として反応し、生成された励起状態のオキシルシフェリンが基底状態に戻る過程において起こります。このような化学エネルギーから光エネルギーへの変換がホタルの体内では起こっているのです。この発光は神経系により支配されることがわかっています。また、ホタルは種によって明滅発光のリズム(周波数)が異なっていることなども知られており、自然界のなかで光信号を用いたコミュニケーションをしているという説も唱えられています。
この実験では先生の後ろにいて手伝いをすることが大半でしたが、実際にホタルを見に行ったり、インドから来日したホタルの専門家とで急遽必要になった電子部品を買い求めに秋葉原まで行ったりと、常に楽しい研究でした。連日夜間に限られた測定や、生きている生体を相手にする難しさもありましたが、このときは幸運にも外部磁場とホタルの明滅発光リズムに関する測定結果をまとめ上げ、自身の学会発表にも繋がりました。今になって思うと、人を視覚的に魅了するホタルの光が研究に深く興味をもった(大学院進学を考えた)最初のきっかけといえます。
現在の研究では微細な構造を持つ材料を扱っています。周期的な構造などは観察していると見入ってしまい手が止ることもありますが、自分にとってはこのように視覚的に心を惹きつけられることは研究をしている中での小さなリフレッシュでもあります。東広島市ではホタルの生息スポットがあるという情報を見つけたので、ホタルの鑑賞に行くことが来年の楽しみです。
(2014/12/03)