広島大学 大学院先端物質科学研究科 半導体集積科学専攻

コラム   

第66回 「適塾と松下村塾」
 
吉田 毅


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 最近の研究ではシステムから複雑な回路までを取り扱っており,なかなか一人で研究を推進することが困難になっています.このような場合,プロジェクトやチームごとに複数のメンバーで研究を行うわけですが,新人の人達が如何に早くキャッチアップするかが重要になってきます.新人だけでなくメンバーも含めてシステマティックに成長できるような”からくり”は無いものかと考えていますが,私の能力ではなかなか良い案は浮かびません.そこで先人の知恵を拝借しようと調べてみると,江戸末期に10代,20代の若者が集った緒方洪庵の”適塾”や吉田松陰の”松下村塾”などが大学の研究室には適しているように感じます.

 適塾は蘭学塾で特に医学生が多かったのですが,福澤諭吉,大村益次郎等を輩出した有名な塾です.この塾の特徴は,塾生が自治活動のように切磋琢磨しながら勉強していたことにあり,先輩の塾生や塾頭の指揮のもとに自力で学ぶことが塾の方針でした.いわば志のあるものが集まる実技教育の塾です.周りの仲間は敵ではなく,あくまでも自分自身との格闘で自分の能力を向上させることになります.寝食を共にして勉学に励むことで,やる気を醸成する効果が見込めますし,人間関係に慣れる効果もあるでしょう.

 一方,松下村塾も久坂玄瑞,高杉晋作等を輩出した有名な塾です.この塾の特徴は,それぞれの得意ジャンルを生かして先生持ち回り的な勉強会を実践することにあり,基本的に自分で学ぶ意欲を目覚めさせる・促進させるところにあります.いわば思想教育の塾です.教え合う学習は,一人では分からないことも仲間と一緒にやれば挫折しにくいものですし,教える側になれば更に深く考えるようになります.また吉田松陰は自身も含めて塾生に飛耳長目(観察力や情報の収集力があり,見聞が広く物事に精通していること)であるべきだと説いています.これらの考えは現在でも色褪せることがありません.

 人の気質は千差万別です.必ずしも上記のシステムがぴったりハマるとは限りません.しかし縁あって20代前半のこの時期,この場所にいるのですから,まず先達と同じように研究室の仲間と頑張ってみるのはどうでしょうか?

参考文献:偉人たちのブレイクスルー勉強術 齋藤孝著 ISBN978-4-16-783806-5


(2012/10/19)




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