平成18年11月より、寄附講座「先端ディスプレイ科学講座」の教員として仕事をさせて頂いた。今年度で満了するが、感じた事を、思うままに書いてみよう。
寄附講座とは、企業、団体、個人の奨学基金を原資にして、大学が期間限定で開設する講座である。大学によっては、学部・大学院の組織に組込むこともある。広島大学では寄附講座の実績が少ないが、東京大学、京都大学では常に数十の寄附講座が開講されている。寄附講座の数は、大学への期待値、ブランド力の指標であるが、そのことに鈍感な大学も多いと聞く。
私が在籍した寄附講座は、国内のプラズマでディスプレイ(PDP)メーカーからの奨学基金で開設された。大学にPDPの技術開発、人材教育拠点を構築して、PDP産業の基盤整備をするという、業界、経済産業省の意向があり、寄附講座設置に至った。なぜ、広島大学であったかというと、PDP研究の黎明期、広島大学工学部が研究開発の中心地であったからである。私が着任した時には、その片鱗さえも残っていなかったのは残念であった。あのまま継続していたら、研究所のひとつぐらいはできていたというのが、業界関係者の一致した見解である。
寄附講座での研究は、色々なアクシデントを乗り越えながら、順調に立ち上がった。NEDOの研究開発プロジェクトの大学拠点として、PDPのあらゆる分野(高効率マイクロプラズマ制御、次世代電極材料開発、高輝度蛍光体開発、省エネ生産技術)の垂直立上を行い、おおくの先導的な研究成果を提示できるようになった。国際学会では広島大学の研究動向が常に注視されるようになり、招待講演の常連になった。国際フォーラムをいくつも主催した。留学生もたくさん来てくれた。実用化につながる成果もたくさん出た。賞もたくさん頂いた。何よりも、エネルギーデバイス分野への展開がうまく行き、研究費もどんどん入るようになった。
期間限定、分野限定、予算たっぷり、自由度あり。数々の幸運にも恵まれ、周囲の人に支えられて、この広島大学で縦横無尽に仕事に没頭できたことは、この上ない幸せであった。
時代は超スピードで動いている。技術はすぐにコモディティーになり、競争力を失う。今の日本の状況を見渡すと、けん引役であった半導体、家電に往時の勢いはない。そういう時こそ、大学には次世代実装を見据えた研究をする義務がある。社会はそれを求めている。寄附講座を、既得権益(学生、スペースなど)の侵害者として見るのでなく、次世代を切り開く土木機械として位置づけることができれば、その大学の活力も増すであろう。
最後になりましたが、半導体専攻の先生方、先端研支援室の皆様、本部財務・施設グループの皆様、寄附講座開設にご尽力いただいた関係者の皆様、寄附元である㈱次世代PDP開発センターに心より御礼を申し上げます。短い時間でしたが、存分に仕事をすることができました。有難うございました。
(2012/3/7)