広島大学 大学院先端物質科学研究科 半導体集積科学専攻

コラム   

第48回 「シミュレーションの勧め」
 
吉田 毅
 
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 シミュレーションといっても講義や研究で用いる回路シミュレーションやデバイスシミュレーションについてではなく,議論や打合せ時に想定される質疑をあらかじめシミュレーションし(模擬実験し),必要なデータ等の準備しておきましょう,ということについて自戒を含めて述べます.
 研究室に配属されると,研究室の先輩や教員との研究についての議論が,これまでに比べて飛躍的に多くなると思います.その際にどういったスタンスで打合せや議論に臨んでいるでしょうか?例えば,実験でうまく結果が出ず,先輩や教員に質問に行く場合を考えてみましょう.

 ・うまくいかないことだけを報告する

  こちらは論外ですね.議論が始まりません.

 ・うまくいかない実験結果を示す

  普通はここから始まると思います.主な要因が明確で先輩や教員の知識や経験があればひょっとしたらこの時点で気がつく
  可能性がありますが,そうでない場合は実験系の詳細や他のパラメータの応答特性について,さらに質問が来ると容易に
  想像できます.説明資料がない場合,問題点が曖昧なまま「次の機会へ」となりかねません.

 ・これまでの知識を基にした予測と実験結果の比較および現象を俯瞰的に見て複数のパラメータを用いた実験を行う

  パーフェクトです.本人が実験のうまくいっていない根拠をどの様に考えているか,(時間の制約のある中)どこまで現象を
  追い込めているかが一目瞭然ですし,具体的な議論が期待できます.

 このように想定される質問をあらかじめ予想し,その質問に答えられるデータを用意しておくと,より詳細で具体的な議論が期待できます.もちろん知識や経験は個人差がありますので,その時点の知識では根拠に間違いや見落としがあって,判断を間違えることがあるかもしれません.しかし,この時点で少なくともどの程度まで理解しているか(認識できているか)が明確になります.例えその時点で根拠が間違っていても,間違いを修正することで次の機会には正しい結果(正しい判断)を示すことができます.
 これまで学生の皆さんは試験で100点を取ることを目標に勉強してきたと思いますが,試験勉強はあくまで知識を習得するだけです.研究ではさらなる知識の積み上げと,これらの知識を使って事象についての判断を行い,さらにその判断に基づいて行動を起こす必要があります.特に研究内容を議論することはこれらのスキルを習得する手段として有効なので,ぜひ議論する前に自分で質疑応答のシミュレーションをしてみてください.議論をするには準備が8割,根拠が命です[1].(と自分にも言い聞かせています.)


[1]武器としての決断思考(瀧本哲史著).(ディベートの作法の本ですが,考え方は一般的な議論でも成り立ちます.)

(2012/1/23)


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