広島大学 大学院先端物質科学研究科 半導体集積科学専攻

コラム   

第36回 「好きなことを専門あるいは仕事にすることの難しさ」
 
岡田 憲司

ナノデバイス・バイオ融合科学研究所
ナノテク支援研究員
 
 >> 研究室(ナノデバイス・バイオ融合科学研究所)ホームページ
 私は考え事をするのが好きですが、普段自分の考えを話すことが得意ではないので、今回は少し長くなりますがそれについて紹介します。
 私は、自分の好きなことを自分の専門あるいは仕事にすることの難しさについて昔からたびたび考えることがあります。専門あるいは仕事にしたことを好きで居続ける難しさと言った方が良いかも知れません。最初にこれを考えたのは高校の時音楽に夢中になっていた時です。音楽は好きでプロになりたいと言う夢も持っていなかったわけではないのですが、音楽を自分の仕事にしてしまうと音楽が嫌いになってしまうのではないかと言う漠然とした思いがあり、私は早くから音楽のプロへの夢を捨てました。
 私は比較的勉強が好きだったので次の夢は研究者になりたいと言う物でした。研究者と言うと自分の好きなことだけやって食べて行ける職業だと思っている人が少なくないかも知れません。しかし実際にはよほど調べ抜いて所属する研究室を選ばない限り、自分の研究したいテーマと実際に研究できるテーマにはどうしてもズレが生じます。自分の実力が足りず、選択肢が狭くなることもあり得ます。さらには、私のような不埒な人間は特にそうですが、研究したいと思うテーマが途中で変わってしまうことなどもあります。高校の時、私は理系なので本来生物の授業は取らないのですが、あまのじゃくだった私は生物学を独学で勉強し、好きになり、極めたいと思い大学ではバイオを専攻しました。しかし今度はコンピュータや人工知能を極めたいと思うようになり、大学院では自分の過去の専門も活かしつつ、新しい興味の対象も追えるバイオインフォマティクスの道を選びました。コンピュータやプログラミングが好きであることを生かしてベンチャー企業でプログラマになったこともあります。しかしどれも純粋に100%好きで居続けることは難しいことでした。
 自分の本当に興味のあることと実際の研究テーマが違う研究者と言うのは意外と居るものです。私の場合今所属している研究所の研究テーマのほとんどが私の興味の持てるものであることやどんな研究テーマだろうとそれを極めることには大きな意義があると思えるようになったのでこんなことが書ける(と言ってもまだ深い研究の道のほんの入り口に立っているだけなのでそう思えているだけなのかも知れない)のですが、それでも雑用などもこなさなければならず、本当に好きなことだけやって生きて行けていると言う状態とは言えないのが恐れながら申し上げますと現実です。
 ところで少々話はずれますが、研究者と言えば人とは違う物の見方あるいは考え方をすることが重要だと言う考えが世の中にはあります。私もかつてはそう信じ込み、なるべく人とは違う物の見方をするよう心がけていた、オリジナリティーを大切にしていた時期がありました。その時の影響もあるのか、私は人とは違う物の考え方をすることが多いですが、実際には物事の考え方が人と違い過ぎることは苦痛であることが多いです。生きる上ではオリジナリティーにも増して、ユニバーサリティーと言う物が求められるものなのです。このことも私の人生でしばしば考えてきたテーマです。
 話を元に戻しますと、本当に自分のやりたいことをやるためには自分のやりたいことをやるための会社を起業すれば良い、と言う考えもあります。しかし、私にはもちろん経験がないので言いきることはできませんが、会社を興した所でやはり自分のやりたいことだけやって生きてはいけないと言う現実は研究者とそう変わりはないのではないかと言うのが私の推測です。
 ところで私は会社の社長などと言う大それた物になるには向いていない性格なのはだれの目にも明らかなのですが、だからこそ起業と言う物に憧れを持っている面があります。仮の話としてそこでもし本当に現実のことを一切気にせずにやりたいことだけがやれるとしたら何をやりたいかと言うと、私は前に特許事務所で働いていたことなどもあり、知的財産や知的生産活動について興味を持っています。知的財産である著作物やアイディアは、誰でも簡単にコピーや真似が出来てしまうと言う性質を持っています。そこで法律や技術で許可のないコピーや真似を厳しく制限しようとしているのが現在の時代の流れです。
 しかし私は経済学には素人なので荒唐無稽な話なのは自覚していますが、コピーや真似が容易であると言う現実をありのままに受け入れ、新しい経済システムを1から構築しようとしたらどうなるでしょう?コピーや真似をあるがまま受け入れてしまえばそれは共産主義だと思う方もいるかも知れません。確かにそれは今の資本主義と言う経済システムとは全く違ったものになるかも知れません。しかし私はそれが資本主義の更なる進化を遂げた新しい物になると言う予感がしているのです。
 私がもし現実のことを気にせずやりたいことを思い切りやれる環境があれば、新しい経済システムと現在の経済システムの橋渡しとなる仕事をし、両方の経済世界の覇者を目指したいと思ったりします。鈴木健氏のPICSYや原丈人氏の公益資本主義など、本気で次世代の資本主義を考えている人のアイディアに比べたら私の考えなど取るに足らないものかも知れませんが、今日は自由に文章を書かせて頂けると言う機会に甘えて大言壮語を吐かせて頂きました。ちなみにこんな好き放題のことをブログにも書いていたりします。
 しかし私は不埒な人間なので前述のやりたいことを思い切りやれる環境ができたら、きっとまた違うことがやりたくなることでしょう。

(2011/8/30)



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