広島大学 大学院先端物質科学研究科 半導体集積科学専攻

コラム   

第24回 「興一利不若除一害」
 
藤島 実
 
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 興一利不若除一害(一利を興すは、一害を除くに若かず)とは、モンゴル帝国の基礎を作ったといわれる大宰相、耶律楚材(やりつそざい)の言葉で、何事においても、一つの利益あることを始めるよりは、一つの害を除くほうに用いるべきだ(諸橋轍次著・中国古典名言事典)という意味です。4月から専攻長となり1カ月がたちました。専攻長の仕事は初めての経験ですが、専攻の運営にかかわる様々な仕事をこなすべく日々過ごしています。専攻長挨拶のページでは専攻が目指している方向についてご紹介しましたが、専攻を運営する上で念頭に置いているのが、この「興一利不若除一害」です。耶律楚材が宰相、つまり現代の首相に相当する職責を果たす上で大事にしていたことからもわかるように、「一害を除く」ことは地味な仕事であるものの、研究室や専攻などの日々の運営に携わる上ではとても大事な教えと考えています。

 一般に、「一害」は「一利」に対して比較的明確にイメージすることができます。考え方や専門分野が異なっていても、課題意識だけは比較的共有しやすいことが多いのです。工学研究では課題の発見から始まりますが、共有しやすい課題の本質となる「一害」を着実に取り除いていくことが組織の運営では重要という教えではないかと思います。

 一方で、研究する上では多くの場合、必要経費となる研究費として競争的資金が必要になります。新しい技術を開発するために研究費を獲得することは工学に携わる教員の仕事の一つとなっています。競争的資金はその名の通り、「一利」を主張する競争の中で、自らの研究提案を通すものです。このとき他人の提案(それは場合によっては異なる分野間の競争になりますが)よりも優っていることをアピールしなければなりません。日本が技術で立国していくために、「一利」が国内だけでなく世界的にも認められ、必要となる研究費を獲得しながら技術を発展させていくことは大事なことですが、研究以外の組織運営については、予算などが必要となる「一利」の提案よりも、限られた予算範囲での堅実なやり方が好ましいと感じる人も多いことでしょう。堅実な運営がなされ、安心して研究できる環境が整っていてこそ、教員一人一人が思いきって「一利」を上げるための研究の提案ができるというものです。専攻運営で「一利」を争うことに気を取られると、結果として教員一人一人の「一利」につながるとは限らない、つまり専攻の運営としては、「一害」を取り除く地味な活動に徹しなければならないと自戒したいと思います。

 我々の専攻には、これまでの先輩方の努力により、幸いにして目立つ「一害」はありませんが、教員や学生のみなさんが抱く小さな問題点を取り除き、安心して「一利」を追求できるよう地道に努力したいと思います。最後に、専攻の運営とは直接の関係ありませんが、3月11日に起こった大震災による災禍、その後の原発事故による被害について一日も早く「一害」が除かれることも、切に願っております。

(2011/5/3)


 
  出典:http://www.hudong.com/wiki/耶律楚材
 


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