第21回 「最後は「決してあきらめない!」=フェニックス精神で」 篠田 傳 (SHINODA, Tsutae) 篠田プラズマ株式会社代表取締役会長兼社長 >> 教員紹介ページ |
東京大学生産技術研究所の寄付講座をたたんで、広島大学に希望をもって寄付講座「先端ディスプレイ科学」を開設したのは6年前でしょうか。東京大学では学生を得られないので、広島に来てディスプレイ専門の学生を育てたい、と同時に広島大学をディスプレイのメッカにしようと思いました。たくさんの方の努力で、講座の開設は実現しましたが、学生の配属が許されなかったので、学生を育てる夢は残念ながら実現できませんでした。関連の教授諸君には、もう少し、受け入れる度量の広さをもってほしかったと思っています。
私は、富士通在職時、プラズマディスプレイの国家プロジェクト組織APDC(Advanced PDP Development Center)を開設すると同時に、これからの人材育成をしないといけないと考えて、大学に寄付講座を開設したのです。当初、企業の方に派遣で来ていただき、研究組織を立ち上げましたが、結局、東大でも広大でも学生がまったく配属されない環境だったのです。
APDCでの研究開発は8年間で5lm/Wという目標を達成し、さらに高精細度の発光効率の向上、プラズマテレビの消費電力向上に貢献するという研究成果を達成し、使命を終えてこの3月に終了します。この間にプラズマテレビは、日本と韓国で大きく成長し、今はさらに、中国でも大きく発展しようとしています。
一方、これからの人材育成を、と意気込んでいた広島大学での活動は、残念ながら企業からの派遣研究員に頼るしかなく、学生との交流も、年数回の講義に終わりました。その内に、私は富士通フェローを退任し篠田プラズマ(株)を起業することになり、多忙を極めて自然と広島大学との距離が出来てきました。年に数回、PDPデバイス、超大画面ディスプレイを中心に講義しましたが、最も重視したのは私の体験を通して、学生に技術者の使命、志、チャレンジの大切さを教えることでした。
必ず教えた5つの言葉は学生のみなさんのみならず教職員の皆さんにも役に立つと思いますのでここで紹介します。
この言葉には下の1~5のように順番があります。
1. 夢をはぐくむ:まず、夢を探すことから始まります。夢はすぐに見つかる場合は稀です。
長い間、自分の目の前のことを必死でやることにより、育まれるものです。
2. 成功を信じる:私はPDPとPTAの2つのデバイスの実用化の夢を得て、共に成功しました。
時間をかけて育んだ夢は大変高い確率で成功します。成功を信じることが強い推進力になります。
3. ともかくやってみる:失敗しないように、やる前に十分調べなさいとよく言われます。
これは一見正しいように思われますが、新しいことをやる場合は、調べれば調べるほど、失敗例が出てきて、やる気がそがれます。
夢が見つかれば、ともかく始めることが大事です。やれば、大概失敗しますが、ここから、自然との対話が始まります。
4. 考えて考えて考え抜く:ともかくやった結果は、ほとんど失敗しますが、失敗の理由をよく考えることです。
自然は、我々にヒントを提供してくれています。そして、また仮説を立てて、ともかくやってみることです。
これを繰り返すことで、成功に限りなく近づきます。
5. 決してあきらめない:3と4は何度も繰り返されます。成功するまで、繰り返すのです。
あきらめずに3と4を繰り返す人に大きなチャンスが巡ってきます。その時に、そのチャンスを逃さないことです。これがチャンスであることに気がつく人は3と4を繰り返している人です。失敗の数を重ねることが成功の秘訣です。
さて、これを応用して、現在やっているベンチャーの経験談を少し話しましょう。篠田プラズマは私が富士通の現役のフェローの時に作りました。2005年です。富士通がディスプレイから撤退ということを聞き、私はすぐに会社を作ることを決心しました。この技術は、従来のディスプレイ技術とは異なり、ガラス基板を使わないで、コンパクトな装置、コンパクトな投資で壁一面のディスプレイを実現できる画期的なものです。また、消費電力も従来の半分以下、重量は1/10になる可能性を秘めています。独立を決心した時は、まだ実用化の可能性は未知でしたが、次の3つの点からベンチャーでも出来て、ビジネス的にも成功する技術だと確信していました。
1. 世界のだれも発想していない、ユニークな技術である。
2. 屋内超大画面市場には適切なデバイスがない。(すなわち競争相手がいない)
3. 投資効率が非常によい。(投資は従来FPDの1/10、販売価格は10倍ですなわち100倍効率がいい)
せっかく生んだ技術です、富士通が引いたからと言って、私が引けば、この技術は日の目を見ないのは明らかです。そこで、10名程度のフェロー室の研究員に相談すると、ほとんどが私についてくるといいました。リスクを避けるため、富士通に2年間の研究継続を許可してもらい、2007年に独立する計画を立てました。「ともかくやってみよう」と思い、実践を始めたわけです。2007年には富士通を正式退社して現在に至っています。独立して4年目を経過しましたが、独立後3年で商品化に成功し、これまで7か所[100㎡]に納入しました。毎日悪戦苦闘ですが、大企業にいたときとは異なった充実感を感じています。安定な大企業の中での開発、製品化とベンチャーでのそれとは、危機感もスピードも充実感も全く違います。それこそ死ぬ思いの困難さは、何度も味わいましたが、「嬉しいことも、苦しいこともすべてを楽しむ」という姿勢でいます。「決してあきらめない」で努力すると不思議と打開策が出るものです。
守りに入ってもしょうがない、飛び込まなければ何も経験できないし、何も得ることはできません。62歳になった現在ですが、まだまだチャレンジは続きます。
今年で、APDCは役割を終えます。同時に、広島大学の寄付講座も終え、私も完全に手を引く予定です。先端ディスプレイ科学講座に協力いただいた先生方、事務の皆様、大変お世話になりました。皆さんも、殻を破って、大いにチャレンジして、東広島の美しい自然の中に、世界の平和の象徴となる科学技術の中心を築いて、チャレンジ精神と志のある元気な学生を育ててください。
http://www.shi-pla.jp/about/ を、ご参考に 「技術は愛」
(2011/03/07)
図1.2x3㎡曲面ディスプレイ 図2.円柱ディスプレイ
図3.3x4㎡曲面ディスプレイ